ボタン穴変形とは?原因・症状・検査・装具療法まで義肢装具士が解説

指の第2関節が曲がったまま伸びない。 一方で、指先の関節は反り返っている。

このような変形は、 ボタン穴変形(Boutonnière deformity) と呼ばれます。

ボタン穴変形は、 PIP関節の屈曲とDIP関節の過伸展 を特徴とする指の変形です。

原因として代表的なのが、 PIP関節背側に存在する伸筋腱中央スリップの損傷です。

また、関節リウマチなどによる慢性的な伸筋機構の障害でも発生します。

装具療法では、単に指を伸ばすだけでなく、 中央スリップの保護、側索の位置関係、 PIP関節の可動性、拘縮の有無 を考慮する必要があります。

本記事では、ボタン穴変形の解剖と発生機序、 診察テスト、スワンネック変形との違い、 保存療法、装具の種類、3点支持の考え方まで解説します。

この記事のポイント
  • ボタン穴変形はPIP屈曲・DIP過伸展が特徴
  • 中央スリップの損傷が代表的な原因
  • 側索の掌側移動が変形の進行に関係する
  • 急性中央スリップ損傷ではPIP伸展位保持が重要
  • 慢性例では拘縮や関節の可動性を考慮する
  • 装具の3点支持では力の作用方向が重要

ボタン穴変形とは

ボタン穴変形は、指のPIP関節が屈曲し、 DIP関節が過伸展する変形です。

PIP関節とは近位指節間関節、 DIP関節とは遠位指節間関節を指します。

PIP関節が屈曲しDIP関節が過伸展したボタン穴変形
ボタン穴変形の特徴は、PIP関節の屈曲とDIP関節の過伸展である。

ボタン穴変形は、指の伸筋機構のバランスが崩れることで生じます。

典型例では中央スリップが損傷し、 PIP関節の伸展機能が低下します。

さらに、側索がPIP関節の掌側へ移動すると、 PIP関節の屈曲変形が進行しやすくなります。

名称の「ボタン穴」は、 伸筋機構の間から近位指節骨頭が背側へ突出するような 形態に由来します。

指の伸筋機構の解剖

ボタン穴変形を理解するには、 指の伸筋機構を知ることが重要です。

中央スリップ(central slip)

中央スリップは、伸筋腱の一部で、 主に中節骨底の背側へ停止します。

PIP関節の伸展に重要な役割を担います。

側索(lateral bands)

側索は指の両側を走行する伸筋機構の構造です。

側索は遠位へ向かって合流し、 終末腱を介してDIP関節の伸展に関与します。

正常な状態では、 側索の位置は周囲の支持組織によって保持されています。

三角靱帯(triangular ligament)

三角靱帯は、PIP関節より遠位の背側で 左右の側索を連結する支持組織です。

側索が過度に掌側へ移動するのを防ぐ役割があります。

横支靱帯(transverse retinacular ligament)

横支靱帯は、側索の位置を保持する支持機構の一部です。

これらの支持組織のバランスが変化すると、 側索の位置や作用方向が変化します。

解剖学的に重要なポイント

中央スリップはPIP伸展、 側索と終末腱はDIP伸展に関与します。

ただし、指の伸展は複数の組織が連動して生じるため、 各構造が完全に独立して働くわけではありません。

ボタン穴変形が生じる仕組み

ボタン穴変形の成立には、 中央スリップの機能低下と、 側索の位置変化が重要です。

① 中央スリップの損傷

中央スリップが断裂・損傷すると、 PIP関節を伸展させる力が低下します。

この段階では、必ずしも典型的な ボタン穴変形が完成しているわけではありません。

② PIP関節の伸展不全

中央スリップの機能低下によって、 PIP関節に伸展ラグが生じることがあります。

伸展ラグとは、 他動的には伸展できても、 自動的に十分な伸展ができない状態です。

③ 側索の掌側移動

時間の経過とともに、 側索がPIP関節の回転軸より掌側へ移動すると、 側索の力がPIP関節に対して 屈曲方向へ作用しやすくなります。

その結果、PIP関節の屈曲変形が進行する場合があります。

④ DIP関節の過伸展

側索と終末腱の張力バランスが変化することで、 DIP関節には伸展方向の力が強く作用し、 過伸展を生じることがあります。

このように、 PIP関節の屈曲とDIP関節の過伸展は、 伸筋機構全体の力学的変化によって生じます。

病態の流れ

中央スリップ損傷 → PIP伸展機能の低下 → 側索の掌側移動 → PIP屈曲変形 → DIP過伸展

ただし、実際の進行速度や変形の程度には個人差があります。

ボタン穴変形の主な原因

外傷性中央スリップ損傷

突き指などでPIP関節へ強い屈曲力が加わると、 中央スリップが損傷することがあります。

スポーツ活動中の受傷や、 転倒・衝突などによって発生します。

開放性損傷

指背側の切創などで 伸筋腱が直接損傷する場合があります。

開放創を伴う場合は、 腱損傷に加えて感染などの問題にも注意が必要です。

関節リウマチ

関節リウマチでは、 滑膜炎や靱帯・腱支持機構の障害によって ボタン穴変形が生じることがあります。

外傷性損傷とは病態が異なるため、 装具療法の目的や適応も変わる場合があります。

慢性的な伸筋機構の障害

中央スリップ損傷の見逃しや、 慢性的な伸筋機構の不均衡によって 変形が進行することがあります。

ボタン穴変形の症状

  • PIP関節が伸びにくい
  • PIP関節背側の疼痛や腫脹
  • DIP関節が過伸展する
  • 指の把持動作が難しくなる
  • 指を伸ばして物をつかむ動作が困難になる
  • 慢性化すると関節拘縮が生じる場合がある

急性の中央スリップ損傷では、 受傷直後から典型的な変形が明らかになるとは限りません。

そのため、PIP関節背側の疼痛や腫脹がある場合には、 変形が軽度でも中央スリップ損傷を考慮する必要があります。

ボタン穴変形の評価・診察テスト

評価では、受傷機転、圧痛、 PIP・DIP関節の可動域、 伸展ラグの有無を確認します。

① PIP関節の自動伸展

PIP関節を自動的に伸展できるかを確認します。

中央スリップ損傷では、 PIP関節の自動伸展が不十分になる場合があります。

ただし、初期には側索による代償で ある程度伸展できることがあるため、 自動伸展が可能でも損傷を完全には否定できません。

② Elson test(エルソンテスト)

Elson testは、 中央スリップ損傷を疑う際に用いられる診察テストです。

一般的にはPIP関節を約90度屈曲した状態で支持し、 PIP関節を伸展しようとする力と、 DIP関節の抵抗感を評価します。

中央スリップが損傷している場合、 PIP伸展力が低下し、 DIP関節が比較的硬く伸展方向へ保持される 所見がみられることがあります。

ただし、疼痛、腫脹、他の腱損傷、 慢性変形などによって結果の解釈が難しい場合があります。

注意

Elson testは中央スリップ損傷の評価に役立ちますが、 単独で確定診断できる検査ではありません。

急性外傷では骨折や脱臼の有無も確認し、 無理な負荷を加えないことが重要です。

③ 他動伸展可動域

PIP関節が他動的に伸展できるかを確認します。

この評価は、装具選択において重要です。

他動伸展が可能な場合と、 固定性の屈曲拘縮がある場合では、 装具の目的が異なります。

④ X線検査

外傷性の中央スリップ損傷では、 中節骨底背側の裂離骨折などを伴う場合があります。

X線検査では骨折、脱臼、 関節の整列などを確認します。

⑤ 超音波・MRI

必要に応じて、 超音波検査やMRIで腱の状態を評価する場合があります。

ただし、画像検査の必要性は 臨床所見や治療方針によって判断されます。

急性期と慢性期の違い

ボタン穴変形では、 受傷からの期間とPIP関節の可動性が 治療方針に大きく関係します。

項目 急性期 慢性期
主な問題 中央スリップ損傷、疼痛、腫脹 側索の位置変化、伸展ラグ、拘縮など
変形 明らかでない場合もある 典型的な変形がみられる場合がある
他動伸展 比較的保たれることがある 制限される場合がある
装具の主な目的 中央スリップの保護、PIP伸展位保持 拘縮への対応、可動域改善、機能補助

ただし、慢性例でも柔軟性が保たれている場合があり、 すべての症例で固定性拘縮が生じるわけではありません。

スワンネック変形との違い

ボタン穴変形と混同されやすいのが スワンネック変形です。

両者はPIP関節とDIP関節の変形方向が逆になります。

項目 ボタン穴変形 スワンネック変形
PIP関節 屈曲 過伸展
DIP関節 過伸展 屈曲
代表的な病態 中央スリップ損傷、側索の掌側移動 掌側板の機能不全、終末腱損傷など
装具の基本的な方向性 PIP伸展位の保持・伸展補助 PIP過伸展の制限

スワンネック変形では、 PIP関節の過伸展を制限する装具が 用いられる場合があります。

一方、ボタン穴変形では、 PIP関節の伸展を保持・補助することが 重要になる場合があります。

詳しくは、 スワンネック変形とは?原因・特徴・装具の考え方 をご覧ください。

ボタン穴変形の保存療法

保存療法では、 中央スリップの状態、 PIP関節の可動性、 受傷からの期間、 変形の程度などを考慮します。

急性中央スリップ損傷

手術を必要としない急性中央スリップ損傷では、 PIP関節を伸展位に保持する装具療法が 一般的に行われます。

固定期間は症例によって異なりますが、 成人の急性閉鎖性損傷では 約6週間の連続的なPIP伸展位固定 が用いられることがあります。

その後、医師やハンドセラピストの指示に従い、 夜間固定や段階的な運動療法へ移行する場合があります。

固定期間中にPIP関節を不用意に屈曲させると、 修復過程にある中央スリップへ負荷が加わる可能性があります。

DIP関節の運動

急性中央スリップ損傷では、 PIP関節を伸展位に保持しながら、 DIP関節の自動屈曲運動を行うことがあります。

これは側索の背側移動を促し、 伸筋機構の滑走を維持する目的があります。

ただし、骨折や合併損傷がある場合などには 運動方法が異なるため、 必ず治療担当者の指示に従います。

慢性ボタン穴変形

慢性例では、 PIP関節の他動伸展が可能かどうかが重要です。

柔軟性が保たれている場合には、 装具療法や運動療法が検討されます。

屈曲拘縮がある場合には、 低負荷で持続的に伸展方向へ働きかける装具などが 検討されることがあります。

ただし、固定性の強い変形では、 装具だけで十分な矯正が得られない場合があります。

ボタン穴変形に使用される装具の種類

① 静的PIP伸展装具

静的PIP伸展装具は、 PIP関節を伸展位に保持するための装具です。

急性中央スリップ損傷の保存療法で 用いられる代表的な装具です。

装具によってPIP関節の屈曲を防ぎ、 中央スリップに加わる負荷を軽減します。

DIP関節は必要に応じて自由に動かせる設計とします。

② 動的PIP伸展装具

動的PIP伸展装具は、 ゴムやばねなどの力を利用して、 PIP関節へ伸展方向の補助力を加える装具です。

慢性期の伸展制限や拘縮などに対して、 適応が検討される場合があります。

ただし、急性中央スリップ損傷に対して、 静的伸展位固定の代わりに 安易に使用するものではありません。

③ 静的漸進的伸展装具

静的漸進的伸展装具は、 非弾性の支持機構を用いて 関節を一定の伸展位置に保持し、 可動域の改善に合わせて段階的に調整する装具です。

主に慢性期の関節拘縮などで 検討されることがあります。

④ 夜間用装具

治療段階によっては、 日中の運動を再開しながら 夜間にPIP伸展位を保持する装具が 用いられる場合があります。

使用開始時期や装着期間は 治療方針によって異なります。

装具の種類と適応の比較

装具 主な目的 検討される場面
静的PIP伸展装具 PIP伸展位の保持 急性中央スリップ損傷など
動的PIP伸展装具 伸展方向の補助力 慢性期の伸展制限など
静的漸進的伸展装具 段階的な伸展可動域改善 慢性期の屈曲拘縮など
夜間用伸展装具 伸展位の維持 治療後期・再発予防を目的とする場合など

装具の適応は、 単に急性期・慢性期だけでなく、 腱の連続性、関節の可動性、 骨折の有無、治療方針によって決まります。

3点支持の考え方

ボタン穴変形に対する装具では、 PIP関節に伸展方向のモーメントを生じさせること が重要です。

そのため、装具設計では 3点支持の原則が利用されます。

3点支持の基本

PIP関節を伸展方向へ誘導する場合、 基本的な力の配置は以下のようになります。

  • PIP関節掌側:伸展方向へ作用する主たる力
  • 近位指節骨背側:近位側の反力
  • 中節骨背側:遠位側の反力

この3つの力によって、 PIP関節に伸展モーメントを生じさせます。

ただし、実際の装具では、 支持面を広く取ったり、 指の形状に沿って力を分散させたりするため、 単純な3点だけで支持しているわけではありません。

力の大きさと圧迫

関節を伸展させる力が強すぎると、 皮膚への圧迫や疼痛を引き起こす場合があります。

とくにPIP関節背側や指節骨の骨性隆起では、 装具による圧迫に注意が必要です。

また、慢性拘縮に対しては、 強い力で短時間矯正するよりも、 適切な低負荷を一定時間加える考え方が 用いられる場合があります。

義肢装具士が押さえたいポイント

装具は単に指を押さえるものではなく、 支持位置と力の方向を調整することで 関節運動を制御するものです。

ただし、急性中央スリップ損傷では、 矯正力を強く加えることよりも PIP関節を適切な伸展位に安定して保持すること が優先されます。

義肢装具士が確認したい装具設計のポイント

① PIP関節の固定肢位

急性中央スリップ損傷では、 医師の指示に基づき PIP関節を伸展位に保持することが重要です。

装具装着中にPIP関節が屈曲していないかを確認します。

② DIP関節の可動性

DIP関節を動かす必要がある治療計画では、 装具がDIP関節の屈曲を妨げないように設計します。

DIP関節まで一律に固定することは、 必ずしも適切ではありません。

③ 指の回旋・側方偏位

装具装着によって指が回旋したり、 側方へ偏位したりしないように確認します。

関節リウマチなどでは、 複数の変形が併存する場合があります。

④ 皮膚への圧迫

PIP関節背側、指節骨の骨性隆起、 装具の縁などに圧迫が集中しないように注意します。

発赤、水疱、疼痛などが生じる場合は、 装具の適合を再評価する必要があります。

⑤ 浮腫への対応

急性期では腫脹が変化するため、 装具の適合状態も変わることがあります。

浮腫の軽減に伴って装具が緩くなる場合や、 逆に腫脹によって圧迫が強くなる場合があります。

⑥ 装着方法と継続性

急性中央スリップ損傷では、 連続的なPIP伸展位保持が必要になる場合があります。

そのため、装具の着脱方法や、 衛生管理時にPIP関節を屈曲させない方法などを 適切に説明する必要があります。

装着時間や着脱の可否は、 必ず医師やハンドセラピストの指示に従います。

ボタン穴変形とマレットフィンガーの違い

ボタン穴変形と同じく、 伸筋腱の損傷によって生じる指の変形に マレットフィンガーがあります。

両者では損傷部位が異なります。

項目 ボタン穴変形 マレットフィンガー
代表的な損傷部位 中央スリップ 終末腱または末節骨背側付着部
主な変形 PIP屈曲・DIP過伸展 DIP屈曲
装具の主な固定部位 PIP関節 DIP関節

中央スリップ損傷と終末腱損傷では、 固定すべき関節が異なることが重要です。

手術療法が検討される場合

すべてのボタン穴変形が 保存療法だけで改善するわけではありません。

以下のような場合には、 手術療法が検討されることがあります。

  • 開放性の中央スリップ損傷
  • 整復困難な骨折・脱臼を伴う場合
  • 保存療法で改善が得られない場合
  • 慢性変形によって著しい機能障害がある場合

手術方法には、 中央スリップの修復・再建、 側索の位置調整、 関節拘縮への処置などがあります。

手術方法や術後の固定期間は 損傷の状態によって異なります。

国家試験で覚えておきたいポイント

  • ボタン穴変形はPIP屈曲・DIP過伸展
  • 代表的な原因は中央スリップ損傷
  • 側索の掌側移動が変形の進行に関係する
  • 中央スリップは主に中節骨底背側へ停止する
  • Elson testは中央スリップ損傷の評価に用いられる
  • 急性中央スリップ損傷ではPIP伸展位固定が基本となる場合がある
  • DIP関節は治療方針に応じて運動を許容する
  • スワンネック変形はPIP過伸展・DIP屈曲
  • 3点支持ではPIP伸展モーメントの方向を理解する

まとめ

ボタン穴変形は、 PIP関節の屈曲とDIP関節の過伸展を特徴とする 指の変形です。

代表的な原因は中央スリップ損傷であり、 側索の掌側移動などによって 伸筋機構の力学的バランスが変化します。

  • 中央スリップ損傷が代表的な原因
  • 側索の位置変化が病態の理解に重要
  • 急性期ではPIP伸展位保持が重要
  • 慢性期では拘縮の有無や可動性を評価する
  • 装具は治療段階と目的に合わせて選択する
  • 3点支持では力の作用方向と圧迫分散を考える

義肢装具士にとって重要なのは、 変形の形だけでなく、 伸筋機構のどの部分が損傷し、 どの関節運動を制御する必要があるかを理解すること です。

参考文献

  1. Elson RA. Rupture of the central slip of the extensor hood of the finger. A test for early diagnosis. J Bone Joint Surg Br. 1986;68(2):229-231.
  2. American Society for Surgery of the Hand(ASSH). HandCare:手・指の疾患と外傷に関する情報
  3. AO Surgery Reference. Hand:伸筋腱・中央スリップ損傷の治療に関する資料

装具の種類、固定期間、運動開始時期は 損傷の状態や治療計画によって異なります。

記事全体の制作方針については、 参考文献・制作方針 をご覧ください。

装具の使用について
治療用装具は、医師の診察・処方に基づき、 症状や治療目的に合わせて選択されるものです。 特に中央スリップ損傷では、 不適切な固定や早期のPIP屈曲によって 治療に影響が生じる可能性があります。 突き指後にPIP関節が伸びにくい場合や、 疼痛・腫脹が続く場合は、 整形外科や手外科で相談してください。

指装具の種類や基本構造については、 指装具とは?種類・適応・固定の仕組み も参考になります。

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