義肢装具士向けに、上肢装具の基本的な概論をまとめます
上肢装具は「形を作るもの」ではなく、手の機能を再構築するための治療手段です。
そのため、単に固定するだけでなく、運動・荷重・日常生活動作までを見据えた設計が求められます。
ここでは、上肢装具を製作するうえで押さえておきたい基本概念と臨床上のポイントを整理します。
この記事のまとめ
- 上肢装具は「固定する道具」ではなく、手の機能を再構築するための治療手段である
- 装具設計では「軽量・簡便・快適・機能非阻害」が基本条件となる
- 静的装具は安静・保護、動的装具は運動の維持・再教育を目的とする
- 熱可塑性樹脂はフィット性・調整性に優れ、上肢装具の主材料となる
- 皮線は関節運動軸と密接に関係し、トリミングライン設定の重要な指標となる
- 骨隆起部は圧集中を避ける設計が必要で、装着感と安定性に大きく影響する
- 手指の長軸や牽引方向は運動様式によって変化し、装具設計に直接関わる
- PIP関節は屈曲時に回旋が少なく、長軸が平行になるという特徴を持つ
上肢装具の条件
望まれる条件
- 1.構造を簡略化し、軽量化させる
- 2.かさばらず、シンプル
- 3.着脱が容易で、装着感が良い
- 4.破損しにくく、型崩れしない
- 5.セラピストでも調整・修理がしやすい
- 6.装着部位以外の機能を阻害しない
- 7.清潔が保たれ体に害がない
- 8.経済的な負担が少ない
考慮すべきポイント
- 1.関節可動域を最大限確保し、生活動作(食事・排泄・安眠)を妨げない
- 2.肩関節・肩甲帯の装具は体幹の肢位を変化させない
- 3.手関節装具の機能的運動域は症例に合わせて固定肢位と可動域を設定する
- 4.手の機能を保存する
装具の分類
上肢装具は目的に応じて以下のように分類されます。
- 静的装具:関節・組織の安静、固定、支持を目的とする
- 動的装具:運動を許容しつつ機能の維持・改善を図る
さらに機能面からは、
- 機能的装具:手の使用を補助・再建する(例:把持装具)
- 非機能的装具:安静・保護を目的とする(例:安静用スプリント)
手の使用目的となる機能的装具は手関節駆動式把持装具やRIC型把持装具などが含まれます。
把持装具などについては、 手関節装具とは?種類・適応・メカニズムを義肢装具士が解説 で詳しく解説しています。
静的装具
適応の幅は広く、骨・関節・腱・筋・皮膚・神経・血管の損傷後と修復後の治癒促進に用います。
目的
- 1.組織の安静及び保護
- 2.機能的肢位や安全肢位の保持
- 3.拘縮の改善、静的な持続
- 4.変形の予防と改善
- 5.関節の動揺性に対する静的支持
- 6.肥厚性瘢痕形成の抑制と改善
動的装具
神経・筋・関節など運動器系に原因があるものに適応が多いです。
目的
- 1.癒着の防止:腱・皮膚の滑動性の維持
- 2.拘縮の予防・改善
- 3.神経麻痺後の筋のバランス維持
- 4.関節運動の維持と再教育
- 5.筋活動の維持と再教育
- 6.麻痺筋の代用・補助
上肢装具の材料
上肢装具の目的と適応を正確に遂行するには、全面接触によるフィット感を重視する必要があります。
そこで上肢装具に用いられやすい素材として熱可塑性樹脂が最も多くなります。
熱可塑性樹脂は接触面や固定部位の皮膚を刺激せず、アレルギーを引き起こさないため使用しやすい材料です。
特に合成樹脂の熱可塑性樹脂素材は強度・弾力性・耐久性が高いとされます。
上肢装具は体重を支えるほどの強度は必要ないため、フィット感を重視して成形しやすいものを選ぶとよいでしょう。
低温熱可塑性プラスチックにはオルソプラスト、ポリフォーム、アクアプラスト、オルフィットなどがあり、
これらは装着感には優れていますが耐久性は劣ります。
そのため手の外科領域の簡易的なスプリントに用いられることが多いです。
手の外科領域の疾患は4か月ほどで治癒が完了するものが多いため、これは問題になりません。
低温性熱可塑性プラスチックは自己接着力もあるため、接着剤が不要です。
次いで金属ではアルミニウム板がよく用いられます。
薄くても丈夫で軽く、耐久性に富み細工がしやすい材料ですが、破損しやすい欠点もあります。
鋼線、特にピアノ線は弾性に富み、ばバネ作用を利用する機構にはよく用いられます。
最近では持続的な伸張も可能な形状記憶の特殊鋼線が用いられることも増えています。
製作上の注意事項
上肢装具は手の機能解剖学や運動学的な観点を押さえる必要があります。
皮線と運動軸
手の皮線は関節の運動軸との関係が深く、上肢装具製作時の接触面・大きさを決める指標となります。
手指のMP関節は、近位手掌皮線の尺側点と遠位手掌皮線の橈骨点を結び、手掌指節皮線と等間隔になります。
手指のIP関節軸は、それぞれの皮線と一致します。これより近位までの装具はその関節運動を許し、遠位までの装具は関節運動を制限します。
手を橈側から見たとき、遠位指節間皮線はDIP関節と、近位指節間皮線はPIP関節と、近位手掌皮線はMP関節と、手掌手首皮線は手関節と運動軸の予測に役立ちます。
骨隆起部および突起部
上肢の骨隆起部や突起部は、装具の採型・採寸・トレース時の指標となります。
この指標が装具のトリミングライン、3点固定の取り方を決定づけ、装着感の安定につながります。
骨隆起部は皮下組織が薄いので、トリミングラインの設定の際にはここを避けることが多いです。
トリミングラインの設定の参考に、テノデーシス効果を考慮する必要もあります。
テノデーシス効果とは?手関節と手指の連動を義肢装具士が解説 で詳しく解説していますので、こちらも参照してください。
ただ、対立バー、虫様筋バー、Cバーなどは母指の中手骨の突起部に当たるため、内側にパッドを貼るなどします。
尺骨茎状突起は特に特記している部位なので、プラスチックを開窓するか、盛修正をして当たらないようにします。
パッドを充てる方法もありますが、パッドを入れすぎることによって全体の圧の分散に影響が出ることも考慮します。
手指の軸・運動方向
開排した指を長軸に沿ってたどると、およそ舟状骨結節部に収束します。
しかし、指を握ると手指の長軸は舟状骨より近位の橈骨動脈の走路に収束します。
これは、手指の内転・回旋現象や遠位横アーチの彎曲度によって変化します。
この収束の違いは、把持動作における手の立体的な運動(回旋・内転)を反映しています。
牽引方向
PIP関節を屈曲させたときの長軸は平行になります。
これは、PIP関節は螺旋関節ながら回旋現象が少なく、屈曲伸展時に回旋しないためです。
MP関節では、牽引方向のみではなく、中手骨の変形は関節運動の方向を変えることもあります。
関節拘縮や変形後は3次元的な変化をし改善は難しいとされます。
そのため、牽引方向は充分に注意しましょう。
また、牽引力は弱い力で長時間行う必要があります。
接触部とアウトリガー
装具の目的が肢位保持であれば問題は起こりませんが、関節拘縮の改善用の装具は一定の牽引力を与えるため、
3点のみの支持では局所的な圧が加わります。
動的装具は関節拘縮の改善や筋の再教育・強化・耐久性の維持を行いますが、
アウトリガーを使って患部遠位に牽引力を加えます。
この時のモーメント力や力の向きはとても注意が必要で、
牽引装置の力が弱くても、望ましくない向きに牽引力を加えると局所的にはその数倍の力が加わることもあり、
装具の主目的を逸脱する恐れがあります。
筋の再教育目的では牽引力は150g以下ほどと弱い力、視覚的に関節運動が確認できる程度で充分です。
筋力強化目的では、何段階か調整可能な強い力で短時間行います。
ゴムバンドの付け外しで調整するタイプは患者本人でも行いやすく、おすすめです。
装具のチェックアウト
時期
- ①仮合わせ時
- ②装着開始時:特に装着して数十分後
- ③装具装着後:定期的なチェック
痛みは一般的にはすぐ出ますが、患者が我慢している場合もあります。
そこであえて数時間後の確認も必要です。
チェック項目
リハビリテーションが進むごとに装具の目的の再確認と部分的な調整を継続します。
3点固定・全面接触・牽引がきちんと機能しているかも確認します。
可動域の改善や装具の劣化によって機能が損なわれていないか、破損はないか確認します。
装具によって機能的な障害を来していないかもチェックします。
リハビリテーションが思うように進んでいないなら、装具に問題が無いかもう一度細部まで確認します。
障害発生から時間が経過するほど手の機能回復力が低くなることがあります。
計画通りに進んでいるかも随時気にするようにしましょう。
まとめ
上肢装具の製作では、単なる固定ではなく「機能をどう導くか」という視点が重要です。
皮線・骨隆起・運動軸といった基本要素を理解することで、より適合性の高い装具設計が可能になります。
治療用装具は、医師の診察・処方に基づき、症状や目的に合わせて選択されるものです。 自己判断で購入・使用すると、症状に合わなかったり、療養費の対象外となる場合があります。 痛みが続く場合は、整形外科などの医療機関で相談してください。